昼下がりのブルー








   天鳥船はだだっ広いのに、独りでいられる場所が少ないのつらいところだ。心が広いといえば聞こえは良いが、警戒心が
ゼロに等しい千尋がどんどん「仲間」として引き入れるから、人口密度が右肩上がり。常にだれかと顔をあわせている状況は、
苦痛以外のなにものでもない。人の気配から逃れるよう堅庭にでたとき、偶然ここを見つけたのだ。日当たりがよく、柔らかい
音を奏でる葉擦れが心地いいい。それでいて耳を澄ませば仲間の声がとどく、絶好の昼寝場所を確保できたと思ったのに、
わずか数日で終わった。枝をかきわけてくるならともかく、細い枝につかまって上から登場するとは、呆れるというか千尋らし
いというか。目を細め、空にむかって溜息をこぼした。
「那岐がぼんやりしているなんて、めずらしいわね」
 千尋は面白いものでも見つけたかのよう、嬉しそうにいった。
「あっ……、いつからいたんだよ」
 後ろ手をついて、くずれそうになった体勢をこっそり立て直す。上から覗きこまれて動揺したなんて知れたら、みっともない。
「いま来たばかりだけど、私がここにいると都合が悪いの?那岐のじゃまはしないから」
「みんなと一緒にいた方がいいんじゃないの。千尋がいなくなって、大騒ぎするヤツは一人や二人じゃないからな。いまごろ姿
が見えないって、風早が必死に探しているんじゃないか」
「いつも風早と行動しないといけないような、言い方をするのね」
「そろそろ、ここが見つかるんじゃないかって、いっているんだ。風早の千尋探知能力は、侮れないからな」
「静かにしていれば、見つからないわよ」
 千尋がすとんと腰をおろした。堅庭から死角になるとはいえ、肩が触れそうなほど近いと、ぎくしゃくしない方がどうかしている。
「もしかして、昼寝をする気か」
「ほかに何があって、ここに来たと思っているの?」
 切り返されて、返答に困った。自分を追ってきたと言われると重く感じるけど、無防備に昼寝にきたといわれると、男としての
面子が揺らぐ。
「そこだと日差しをまともに受けるから、もっとこっちにきたら」
 座席二つ分横にずれたのに、千尋は測ったようにきちんとその分だけ移動してくれた。日蔭にはなったけど、千尋との距離が
広がることはない。
「さすが昼寝同好会ね。安眠に対して、貪欲だわ」
 千尋は、何がおかしいのかくすくすと笑っている。
「僕も寝るから、あとは好きにしなよ」
 那岐が千尋との間に不自然じゃない距離を取ろうと、腰を浮かせたときだった。つと袖を引かれた。
「勝手に動かれたら、困るわ。快適な眠りには、那岐の背中が必要なのよ」
 こっちの都合なんかお構いなしで、「じゃあ、お休み」と底抜けに明るい声で言った。那岐は前髪をくしゃりとつかむと、「まいったな」
と心の中で呟く。衣越しにはっきりと千尋の体温を感じるこの状況で、電源を落とすみたいにぱっと眠れるほど、図太い神経は持ち
合わせていない。それなのに千尋は、規則正しい寝息をたてながら、さらに体を預けてくる。誰かにみつかったときの言い訳を考えて
みたけれど、適当な文句が浮かばない。昼寝に不適切なほど空一面に広がるブルーをみていると、考えることが面倒になってくる。
「静かにしていれば見つからない」という千尋の言葉を思い出し、とりあえず目をとじてみた。眠れるかどうかは、別として。
   








:: あとがき ::

「遙か4」を必死にプレイしているとき、那岐を見ながら泰明が恋しくなり作文したら、会話に神経を使い、苦労
しました(苦笑)泰明じゃなくて那岐だったら、ああだろう、こうだろうと浮かんだものをメモしていくうちに出来上
がったのでした。現代組の、風早・那岐・千尋は三人で一括りです。那千のときは、風早に見つかったらどうし
ようというスリルが、この二人の関係を盛り上げているに違いないと(笑)風千のときも、那岐の話題が出るに
違いないし、だからといって繋いだ手を離すことはないんだろうなあと思うのです。この三人は、この場にいない
相手への優越感が、二人の関係のエネルギー源っぽくないですか。
余裕のない那岐がとってもツボで、それを悟られないように懸命になっているカワユイ彼なのです。
千尋を掴みきれなくて、天然入りつつ実は那岐の反応をこっそり楽しんでいるような、小悪魔仕立てです。一緒
にいる時間が長いし(多分)、同級生だし、なんだかんだ言っても那岐を心安いと思っているのは確か。背中合
わせという、軽くへびの生殺し状態に那岐、よく耐えているよ(笑)












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